夫(それ)陰陽(いんよう)は混鈍(こんどん)たる中より備(そなハ)り、天神(あまつかみ)七ツの代(よ)伊弉諾冊(いざなぎミ)の両尊(ふたみこと)天の浮橋の上にて溝(みとの)交合(まぐはゐ)し、喜哉遇可美少女(あなにくやうましおとめにあいぬ)と曰(のたまふ)、是(これ)情欲(せいよく)の始(はじめ)也(なり)。しかうして人間および禽獣虫魚(きんじゅうちゅうぎょ)に至るまで、交(まじわり)せずといふ事なし。やんごとなき雲の上人も、節会(せちえ)のしのび寝(ね)には百(もも)とせの命もきへなんとちぎり、猛(たけ)き武士も色情に至りてハ心をとろかし、愛(めで)たき髪(かミ)芙蓉(ふよう)の顔(かんばせ)にハ、老いたるも若きもこゝろときめき、互(たがゐ)に想(おもひ)慕(したふ)は此道(このみち)の情ならむ。
春野(はるの)の雉子(きゞす)、秋の鹿、声もかたちも異なれ共、つま乞ふ思ひハかわらまじ。実(げに)や色(いろ)好(このま)ざらむ雄(おのこ)ハ、玉(たま)の觴(さかづき)の底なき心地と、兼好(けんこう)のすさミも亦(また)むべなるかな。
彼(か)の漢王(かんわう)ハ、李夫人の容貌(すがた)を壁に画(ゑがき)ツゝ、自(ミづから)画図(ぐハと)に寄添ひて心を慰め玉(たま)ふとかや。また古(いにしへ)の越王(ゑつわう)ハ、西施(せいし)とかわすむつごとも、会稽山(くわいけいざん)の袖袂(そでたもと)ひるがへしたる錦画(にしきゑ)に淫姿(たわれすがた)をあらわして、気鬱(きうつ)の胸もうち解て、開く思(おもひ)や窓の梅、色香を秘宝館となし、好(こう)人の心をなぐさむるものならし。
鳥居清長「袖の巻」(天明五年頃)序文のパクリ